本記事では、近年の日本企業の米国特許訴訟関与状況を確認し、効率的な無効資料調査および訴訟対策の実現を可能にする「Quality Insights」をご紹介します。ぜひご一読ください。
米国特許訴訟状況
まず、近年の米国特許訴訟状況を見ましょう。図1は2012年から2019年までの米国連邦地裁における特許侵害訴訟の提起件数および当事者系レビュー(IPR)の申立件数を示したものです。ご覧のように、米国における特許侵害訴訟は2015年が分岐点となって訴訟件数が減少しつつあります。こうした減少傾向の原因を考えるために、図2と併せて見る必要があります。図2は米国特許侵害訴訟の提起件数および訴訟提起者の内訳を示したものですが、図2からわかるように、減少傾向の背景には、NPEによる訴訟件数の減少が原因と考えられます。ここで注目すべきは、最も訴訟件数の少ない2019年においても3,280件の訴訟が起きており、毎月平均して237件の訴訟が発生していることです。日本国内の特許侵害訴訟の件数は年間200件未満であることを考えると比べものにならないほど多いものです。
次に、当事者系レビュー(IPR)の申立件数を見ます。説明するまでもなく、当事者系レビュー(IPR)は、特許侵害訴訟において被告にとっての重要な反撃手段です。図1からわかるように、特許侵害訴訟の件数が減少しつつありますが、当事者系レビュー(IPR)は2018年まで減少の傾向がみられません。ここから米国特許訴訟では当事者系レビュー(IPR)は被告の反撃手段として使われ続けていたと言えます。なお、当事者系レビュー(IPR)は、2019年に初めて1,300件を下回っていますが、その可能原因として、USPTOの一連の規則改訂が挙げられます(Jetro2020を参照)。
一方、ご存じのように、ITC調査は、審判手続きの速さ、費用、損害賠償金を求めることができない等の点で知財での訴訟と違います。図3は、米国関税法337条違反の申立に対する調査開始件数を示したものですが、図3からわかるように、米国関税法337条違反の申立はピークが2004年で61件となっております。米国連邦地裁の件数と比べると、ITC調査は決して多くありませんが、競合他社の製品・技術を米国市場から排除する手段として利用され続けていると言えます。
以上のように米国では、特許侵害訴訟の提起件数が日本より遙かに多いこと、また当事者系レビュー(IPR)もITC調査も頻繁に起きていることが明らかになりました。米国でビジネスを展開する際、訴訟に遭う可能性があることを覚悟しなければなりませんし、逆に言えば、自分の利益、権利を守るためにこうした法的手段を駆使する力を持つ必要があると言えます。
日本企業の米国特許訴訟関与件数
次に、日本企業の米国特許訴訟関与状況を見ます。図4と図5は2012~2019年における日本企業の米国連邦地裁での特許訴訟およびIPR申立の関与件数を示したものです(図4は上位20まで、図5は21~40位まで)。
図4、図5を見ると、日本企業は基本的に特許訴訟関与件数がIPR申立関与件数より多いこと、また2012~2019年の間に特許訴訟に関与しているが、IPRを利用していない企業があることがわかります。注意すべきは、IPRの関与件数の多寡だけでは、企業のIPRの利用傾向がわからないことです。なぜなら、原告か被告として特許訴訟に関わっているか、また転移・合併審理などが発生しているかどうかにより、企業のIPRの利用状況が異なることがあるからです。
ここで注目したいのは次のことです。図5からわかるように、他の企業と比べてRenesas Electronicsは、IPR関与件数が特許訴訟関与件数を遥かに超えています。Renesas Electronicsの特許訴訟件数が多くないが、IPR申立の件数が多い理由を探るため、以下InQuartikのデータパートナーDocket Navigatorの訴訟関連情報検索ツールを利用し、その特許訴訟関与状況を確認します。
Renesas Electronics Corporation v. Zond, LLC PTAB-IPR2014-00782
では、Docket NavigatorでRenesas Electronicsを検索してみましょう。[summary]タブを利用すれば、これまでの判決結果のほか、特許争いにおける立場(原告か被告か)、特許侵害訴訟の技術分野などを一括で把握できます。
[Experience] タブでは、訴訟、IPRなどの発生時間を確認できます。図8を見ると、Renesas Electronicsの関与してきたIPRは主に2014年に集中していますが、2013、2014年にそれほどの特許訴訟が発生していないことがわかります。そこで、2014年に大量のIRP申立が起きている理由を確認するために、棒グラフをクリックして案件の詳細を見ましょう。
棒グラフをクリックしてみたら、リストに34件のIPRが出ました。紙幅の関係で、図9では、そのリストの一部を示していますが、図9からわかるように、申立人(patent challenger)はRenesas Electronicsのほか、Toshiba Corporationなど数多くの当事者が存在する一方、特許権者(Patentee)はZond.LLCのみとなっています。つまり、この34件はすべてZond.LLCの特許権に対するIPR申立ですが、Renesas Electronics以外の申立人も混ざっているということです。その理由を知るために、案件の内訳を確認する必要があります。リストから申立人がRenesas ElectronicsであるIPR2014-00782の詳細を見てみましょう。
図10の「PATB joinder」の表記と複数のPatent challengersがいることから、当該IPRは係争特許に関連して複数の異議申立てが存在し、審判が併合されていることがわかります。
ここで、Renesas Electronicsの特許訴訟件数が少ないが、IPR申立の件数が多い理由もわかりました。即ち、例えば、同一特許に対して複数のIPRが提出され合併審判になった際、A社は、自ら提出したIPRの申立人としてのみならず、B社の提出したIPRの共同申立人としてもカウントされます。このように、Docket Navigatorのようなツールがあれば、簡単に特許訴訟とIPRなどの関連情報を確認でき、事件の全体像を掴むことができます。
ところで、同IPRの係争特許ですが、複数のpatent challangerのチャレンジを受けていますが、それはどのような特許なのか、またpatent challangerがそれぞれどのような無効資料を用いて無効化を図っているのでしょうか。引き続き、米国特許の無効資料調査の効率化ツール「Quality Insights」を通じて、その特許の審査・審判経過を確認します。
IPRの重要性と無効資料調査ツールQuality Insightsの活用方法
図11はIPR2014-00782の係争特許US7147759の詳細を示したものです。図11からわかるように、IPR2014-00782の係争特許は高出力インパルスマグネトロンスパッタリング(High Power Impulse Magnetron Sputtering)の技術に関するものです。
ちなみに、Docket Navigatorのユーザーなら、Quality Insightsをそのまま無料でご利用頂けます。また、Docket Navigatorでなくても、Patentcloudに直接アクセスすれば、無料トライアルでQuality Insightsの自動生成無効資料調査レポートを入手可能です。
さて、係争特許US7147759のお話に戻りますが、Quality Insightsで調査対象となる特許番号を入力だけで、その審判・審査経過情報を一括把握できます。
概要ページを通じて、特許の有効性をめぐる様々な情報を確認できます。IPR案件が時系列に沿って並んでおり、互いの関連性および経過時間を簡単に把握できます。NPEか競合他社に提訴された際、最も低い時間・金銭的コストで係争特許の弱点などをチェックできるので、迅速な訴訟対応戦略の立案に繋がります。
IPR案件を任意にクリックすると、関連無効資料と申立られたクレームを簡単に確認できます。
Patent Searchで特許US7147759検索すれば、その関連訴訟情報を閲覧できます。図14のように、Zond,LLCは2013年に8件の特許を侵害したとして、Renesas Electronicsを含む複数の当事者に侵害訴訟を提起しています。US7147759はその内の1件です。訴訟経緯に関する記事はこちらをご覧ください。
ご覧の通り、Renesas Electronics だけでなく、Zond, LLCに提訴された当事者のすべてはIPRを請求しており、対象クレームのほとんどがつぶされています。実際、USPTOの統計によると、IPR申立は一旦審査段階に入ると、特許の請求項の無効率は7~8割であるということです。IPR申立は被告側にとって有効な反撃手段とされる理由はここにあります。更に言えば、IPRの利点として、費用が訴訟より安く、早期和解が図れるなどが挙げられます。早期和解できなくても係争特許を無効化にすることも可能です。IPR申立の根拠となる無効資料の提出が如何に重要かわかります。
図16は、日本企業が無効資料調査を行う際によく直面する問題をまとめたものです。
図16からわかるように、従来の無効資料調査を利用する場合は、どのような検索式を立てばいいか、どのような公報を抽出すべきかなどは知財関係者の悩みの種です。しかし、Quality Insightsを使用する場合は、特許番号を入力するだけで、対象特許(係争特許)の無効資料になり得る先行技術文献を簡単に手に入れることができます。
同セミナーによると、IPRで無効理由となった先行例の内の約40%が、対象特許もしくはそのファミリーの引例に含まれています。Quality Insightsはその40%をカバーするだけでなく、残りの60%をカバーする機会を提供しています。
Quality Insightsが自動集約する先行技術文献は、対象特許の引例(引例の引例を含む、最大6世代まで引用文献・被引用文献を検索可能)、その対応特許(ファミリメンバー)の引例、セマンティック先行技術の3種類に分かれます。概要ページの右上のタブ「先行技術ステータス」をクリックすると、無効事由に使用可能な先行技術の数および内訳を確認できます。
Quality Insightsの関連する先行技術(セマンティック類似)では、独自開発のセマンティックにより、発明名称、要約、第一請求項の意味的類似性に基づき、お探しの係争特許の技術内容に近い特許文献(5庁・世界知的所有権機関)を自動的に集約できます。類似度が高い順に、無効事由に使用可能な、上位300件の先行技術を特定できます。フィルターと検索バーが備えているため、図20のように、直接検索キーワードなどで確認したい情報を絞り込むことができます。
更に、Patentcloud独自開発の自然言語処理技術により、図21~23のように、請求項ごとに対して客観的数値に基づく分析を行うことができます。請求項における特徴的な技術用語を自動抽出した上で、明細書、審査・審判書類、先行技術などでの出現確率を自動計算できます。客観的数値に基づく無効主張の検討が可能になります。
このように、膨大な先行技術文献から無効資料となる文献を特定することは容易なことではありませんが、紛争の初期対応の際、Quality Insightsの特許有効性レポートを中心に外部専門家と共に作業を進めれば、社内体制の強化および柔軟に外部連携ができるため、慌てずに訴訟戦略の立案が可能になります。Quality Insightsにご興味のある方はぜひお試しください。