前回の続きです。前回では、二次電池分野におけるTDKの「布陣」を見てきました。Due DiligenceでTDKの二次電池に関する特許ポートフォリオを調査した結果、以下の2点が明らかになりました。
- TDKが保有する関連分野の特許(出願中及び存続中の特許を含む)のうち、共同出願は全体の僅か4%であり、TDKは二次電池関連分野において独自の開発技術を持っていると言える。
- 2020~30年の10年間でTDKが保有する関連分野の存続中の特許件数の減少は緩やかであり、二次電池市場への影響は続いていくと見られる。
こうした結果を踏まえて前回では、TDKは二次電池技術において優位を維持する可能性が十分あることを指摘しました。ここでもう少し考えたいのは、二次電池技術におけるTDKの「布陣」がどれほど強いものか、言い換えればTDKの二次電池技術が競合他社にとってどれほど大きな存在となるか、更に言えば、経済的利益をもたらす可能性があるのか、ということです。二次電池技術におけるTDKの強さを確認するために、今回は特許引用情報の観点から同じくDue Diligenceを利用して分析していきたいと思います。
ここで引用情報、特に引用回数について注目する理由は、先ず図1のように、引用回数は重要な特許評価指標の一つであり、複数の特許評価モデルに用いられています。
引用回数は「審査官引用回数(審査官前方引用件数)」と「出願人引用回数(出願人前方引用件数)」の二つに分類できます。例えば、審査官引用回数とは、特許が後続出願の審査において拒絶材料として審査官に引用された回数のことですが、審査官引用回数に基づき、引用された特許がどのくらい他社の後発技術の権利化を阻害してきたのか、即ち、引用された特許が他社に対して牽
牽制効果を発揮するかどうかを推測することができます。
一方、米国では、出願人引用回数(つまり出願人による引用の回数)がしばしば特許評価の指標の一つとされています。山田(2010)の指摘のように、出願人による引用回数の多い特許は、多くの出願人がその技術の有効性に触発されて新しいイノベーションの契機を見出していることを意味するので、価値の高い特許であると考えられます(注:山田節夫(2010)「審査官引用は重要か―特許価値判別指標としての被引用回数の有用性―」『経済研究』61-3、203-216)。則ち、多くの出願人に引用される特許は、他社からの注目度が高いと言えます。
このように、引用回数、つまり前述した審査官引用回数と出願人引用回数を通じて、他社における当該特許の位置付け、言い換えれば、当該の特許が他社にとってどのような存在かを推測できます。このため、膨大なデータから効率よく特許の引用情報を抽出するのは非常に重要です。以下、TDKの二次電池の特許ポートフォリオを引用している出願人、出願人ごとの被引用回数等を利用して、特許の現金化の可能性を示す手がかりを見つける方法を紹介します。
ではまず、TDKの二次電池関連特許ポートフォリオを引用している出願人(企業)のランキングを見ていきましょう。
TDKの特許ポートフォリオを引用している出願人のランキング
- 特許ファミリー件数の観点から
TDK CropのHM01での特許出願の番号又は特許番号をDue Diligenceに入力すると次のグラフが自動的に生成されます。
図3のように、図2のグラフをクリックすると、TDKの特許ポートフォリーを引用する特許の詳細情報(審査官引用か出願人引用かなど)を確認できます。
図2は、特許ポートフォリオを引用している出願人のランキングです(TDKを除いた)。出願人を見てみると、当分野において、TDKの特許ポートフォリオを引用する特許ファミリー数トップ10の出願人は、リチウムイオン二次電池の研究開発に注力しているメーカーであることがわかります。
次の図4は、2009~2015年におけるリチウムイオン二次電池に関する出願人別ファミリー件数上位ランキング(日米欧中韓への出願)です。
上記の図2と比較すると、リチウムイオン二次電池に関するファミリー件数の上位の出願人は、TDKの特許ポートフォリオを引用するファミリー件数の上位の出願人とほぼ同じであることがわかります(上位3位は同様に、LG化学(韓国)、トヨタ自動車株式会社、Samsung Group(韓国)であり、次にパナソニックグループの順です)。ここから、TDKの所有する特許は、他社にとって当該分野で研究開発を実施する際に無視できない強い存在となっているといえます。
次に特許ファミリーサイズに焦点を当ててみていきます。
- 特許ファミリーサイズの観点から
特許ファミリーサイズ、即ち、特許ファミリーに含まれる特許件数が多いほど、出願人は当該特許を重要視していることがわかります。例えば、特許ファミリーサイズからその特許を商品化する可能性を推測できます。特許ファミリサイズが1の特許ファミリーは、出願国が一つ又は関連特許群がないことを意味するので、企業の中核技術でない可能性が高いといえます。それに対して、ファミリサイズが7以上の特許ファミリーは、出願国が複数であること又は6件以上の関連特許群があることを意味するので、企業の中核技術であることが推定できます。
ここで図2をもう一度見ていきましょう(下に再掲)。
図5の右下に表示されているように、薄いグレーは特許ファミリーのサイズが1、濃いグレーは6以下です。また、薄いオレンジは7、濃いオレンジは12以上の特許ファミリーのサイズを表しています。
図5に示すように、出願人のトヨタ自動車がTDKの二次電池に関する特許ポートフォリオを引用している特許ファミリー数は合計78件と最多となっていますが、この内、特許ファミリーのサイズが6以下は約9割、特許ファミリーのサイズが7以上の大きな特許ファミリーは約1割となっています。このことから、関連分野において、TDKの特許ポートフォリオは、トヨタの中核技術の特許にそれほど影響力は無いと言えます。
一方、2位のLG化学と7位の株式会社半導体エネルギー研究所を見ると、TDKの二次電池に関する特許ポートフォリオを引用している特許ファミリー数はそれぞれ71件と31件となっています。そのうち、ファミリーサイズが7以上の大きい特許ファミリーはそれぞれ4割程度と6割程度に達しています。
特許ファミリーサイズが大きいことは、当該技術の権利化が複数の国で行われていることを意味します。サイズの小さい特許ファミリーと比べてより多くのコストがかかっているので、当該技術は企業の中核技術となる可能性が高いと思われます。前述のように、二次電池分野において、LG化学及び株式会社半導体エネルギー研究所の中核となる技術の多くがTDKと関係しています。TDKの関連特許は2社にとって大きな存在といえるでしょう。
これまでの調査を踏まえて更に次のことがいえます。経済的利益の観点から見れば、TDKにとって、トヨタより、LG化学及び株式会社半導体エネルギー研究所との特許取引の機会が多く、特許収益化の見込みが高いと考えられます。
一方、LG化学及び株式会社半導体エネルギー研究所にとっては、将来関連研究開発を行うためのFTO調査を行う際に、他の出願人と比べてより一層TDKの技術動向に注目する必要があると思われます。
まとめ
以上、特許の引用情報を通じて、TDKの二次電池技術が競合他社にとって大きな存在であることを確認しました。また、経済的利益の観点からもTDKの布陣の強さを改めて認識しました。1点付け加えると、Due Diligenceの「価値ハイライト」機能は、特許ポートフォリオの引用・被引用情報分析に特化されるもので、ワンクリックするだけで、特許ポートフォリオで「重宝」となるものを確認できます。
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