米国市場参入と特許関連コスト
自社の研究成果を商品化し市場参入を目指す際に考えるべきことと言えば、特許の取得です。そこで特許にまつわる費用、つまり特許関連コストについて知る必要があります。
御存知のように、特許の取得から維持までコストがかかります。それは進出国において自らの技術・発明を排他的に実施するために必要な費用です。しかし、こうした費用以外にもかかるお金があります。例えば、特許侵害訴訟に巻き込まれないよう、技術動向調査やFTO調査を実施するために調査費用がかかります。また、特許権紛争が生じ、つまり提訴したり提訴されたりした場合は特許訴訟関連費用が発生します。こうした潜在的なコストは、特に訴訟大国である米国では一層高くなります。
本記事では、近年の日本企業の米国特許訴訟関与状況を分析し、特許訴訟コストを確認します。また記事の最後に特許訴訟のコストダウンにつながるツール「Quality Insights」の簡単な紹介があります。詳細な操作方法などに興味をお持ちの方はこちらの記事をご覧ください。
2010~2020年の日本企業の米国特許訴訟関与状況
図1は、2010~2020年日本企業の米国特許訴訟関与状況を表すものです(上位35社のみ)。灰色の棒グラフは各日本企業の2020年までの米国特許出願累計件数です(存続特許のみ)。青色の線は日本企業が被告とし、オレンジ色の線は日本企業が原告として訴訟に関わる件数です。
検索日:2020年9月30日
ここでまず、灰色の棒グラフをコストの観点から考えてみましょう。前述のように、特許の取得から維持まで費用がかかります。特許庁の資料によれば、一件あたり少なくとも約6,197米ドル(736,189円)かかります(「特許関係料金の見直しの検討について」および「主要国・機関における特許出願政府費用等一覧表」を参照)。そこで仮に米国特許を2,500件保有しているとすれば、最低でも約1,500万米ドルかかる計算になります。勿論、一回払いで支払うものではありませんが、米国における年間売上高が3億ドルの場合、売上の約5 %を占めることになります。
次に、青色の線とオレンジ色の線に注目します。同じくコストの観点から考えてみましょう。まず、どの企業でも2010~2020年の間に被告または原告として特許訴訟に関与していることが確認できます。また一部の企業を除き、多くの企業の場合は、被提訴件数が提訴件数より多くなっています。その被提訴件数を見ると、平均して毎年最低1件となっています。米国進出した場合、自ら特許訴訟を提起しなくても、毎年被告として訴訟に関わる可能性があると言えます。言い換えれば、特許訴訟関連費用が発生する可能性があると言えます。
以上示したように、米国では、特許の取得や維持の費用以外に、特許訴訟関連費用が発生する可能性が十分あります。そこで特許訴訟が起きた場合、どのような点が訴訟対応コストに影響を与えるかを把握しておく必要があります。
訴訟対応コストに影響を与える要因として次の2点が挙げられます。
- 早期和解の可能性
- 無効資料の発見
以下、この2点について説明します。
早期和解の可能性
表1は、特許訴訟に関連する制度の概要、データ等の各国比較です。
表1から次のことがわかります。
- 第一審の平均費用
第一審の判決に至るまでの平均費用について、米国では平均最高額は6,000千ドルと各国の中で最も高いものとなっています。 - 第一審平均審理期間
第一審平均審理期間についても、米国では最長42か月と各国の中で最も長いものとなっています。
上記のように各国の比較から、米国訴訟は時間的にも金銭的にもコストがかかることがわかります。言うまでもなく、特許裁判で負け、損害賠償を支払う事態になった場合、企業が受ける損害は更に大きなものになります。
各国の特許損害賠償額については、表2をご覧ください。表2は、主要地域における特許侵害訴訟の容認額をまとめたものです。表2で提示された最大値と最小値からわかるように、米国では損害賠償額が桁違いに大きいと言えます。
図2のように、米国における特許訴訟は訴答(Pleading)、証拠開示手続き(Discovery)、クレーム解釈手続き(markman hearing)、略式判決(Summary Judgment)、公判審理(Trial)などいくつかの段階に大きく分けることができます。訴答段階では、訴状、及び召喚状が送達された後、指定期間内に申立て(motion)又は答弁書(answer)を提出しなければならないため、弁護士代や行政費用などのコストが必要となります。また訴答段階に続く証拠開示手続き段階では、相手の要求に応じて、範囲の広い情報を開示しなければならならないため、弁護士費代は勿論、eディスカバリー支援業者への業務委託料、社内コストなどが発生することになり、その結果、前段階より膨大なコストがかかります。訴訟というものは、進めば進むほどコストが高くなると言えます。訴訟コストを抑えるため、なるべく早い時期に示談交渉を行い和解を図る必要がありますが、問題になるのは和解を早期に実現するための条件です。
無効資料の発見
ここで、米国で特許権侵害で提訴された場合の解決法を考えてみましょう。周知のように、直接紛争当事者とライセンス交渉を行うのも一つの手です。しかし、事情によってはそうはできない場合があります。例えば、高額のライセンス料を要求されるなど、極めて不利な条件を押し付けられる場合です。そうならないため、つまり早期かつ有利な和解を実現するため「無効資料の発見」が非常に重要になります。
ではなぜ無効資料の発見は重要なのでしょうか。それは、特許係争において係争特許の有効性が往々にして係争の争点になるからです。係争特許を無効にするための証拠資料、即ち無効資料が提出された場合、係争特許の無効が認められ、権利者に不利な結果が出る可能性が高くなります。従って、有効な無効資料を盾にすれば和解交渉を優位に進めることができます。早い段階での無効資料の発見は、早期和解を実現するための鍵と言えます。
しかし、膨大な先行技術文献から無効資料となる文献を特定することは容易なことではありません。知財関連、技術関連の専門知識は勿論、無効調査の効率化を可能にするツールが必要となります。そこで解決策として、米国特許の無効資料調査ツール「Quality Insights」をご紹介します。
無効資料調査のワンストップ化が実現できるQuality Insights
Quality Insightsは米国無効資料調査のワンストップ化が実現できるクラウド型サービスです。Quality Insightsを利用することで、対象の米国特許(係争特許)の概要を把握できるだけでなく、無効主張の可能性を検討できます。Quality Insightsの主な特徴は三つあります。
- 簡単な検索方法
検索実行の際に、検索式を立てる必要がなく、特許番号を入力するだけで、対象特許(係争特許)の無効資料になり得る先行技術文献を集約できます。 - 便利な二次利用
利用可能な資料(明細書、出願経過情報、審査書類など)がすべてテキスト化されているため、キーワード検索や他の文書での二次利用が可能になります。 - 客観的数値に基づく分析
特徴的な技術用語を自動抽出した上で、審査書類など重要資料における出現確率を自動計算できます。客観的数値に基づく無効主張の検討が可能になります。
簡単な製品紹介や操作画面は次のスライドからご覧頂けます。
有効な無効資料を見つけるために、ぜひお試しください。